経歴詐称や反社会的勢力との関わりなど、採用ミスマッチを防ぐために注目される「採用調査」。しかし、「どこまで調べれば合法なのか」「候補者にバレることはないのか」と、その実施に不安を抱える企業担当者の方も多いでしょう。本記事では、採用調査の目的から、個人情報保護法に基づいた合法・違法の境界線、具体的な調査方法と費用相場、候補者に調査の事実が発覚する可能性まで、弁護士監修のもと網羅的に解説します。結論として、採用調査は候補者本人の「同意」が大原則であり、同意なく思想信条や病歴といった機微な情報を調べることは重大な法律違反となる可能性があります。企業と候補者、双方の権利を守り、トラブルを未然に防ぐための正しい知識を身につけましょう。
採用調査とは 企業が実施する目的と背景
採用調査とは、企業が採用選考の過程で、候補者(応募者)の経歴や人物像などについて調査することです。「バックグラウンドチェック」とも呼ばれ、採用における重要なリスク管理の一環として位置づけられています。提出された履歴書や職務経歴書、面接での発言だけでは把握しきれない客観的な情報を得ることで、公正な採用判断を下すことを目的としています。
近年、働き方の多様化や転職市場の活性化に伴い、人材の流動性が高まっています。その一方で、経歴詐称やコンプライアンスに関わる問題も顕在化しており、企業は採用における潜在的なリスクをより慎重に評価する必要に迫られています。こうした背景から、候補者の申告内容の真偽を確認し、組織の健全性を守るために採用調査を導入する企業が増加しているのです。
採用ミスマッチを防ぐための採用調査
企業が採用調査を実施する最大の目的の一つが「採用ミスマッチ」の防止です。採用ミスマッチとは、企業が求める能力や価値観と、採用した人材が持つスキルや志向が合致しない状態を指します。ミスマッチが発生すると、早期離職につながり、多大な採用コストや教育コストが無駄になるだけでなく、既存社員の士気低下や業務負担の増加といった悪影響を及ぼす可能性もあります。
採用調査は、候補者から提出された書類や面接での自己申告を客観的な事実に基づいて裏付けるための重要なプロセスです。例えば、職務経歴書に記載された業務内容や実績が事実と異なる場合、入社後に期待されたパフォーマンスを発揮できず、結果としてミスマッチにつながります。採用調査によって申告内容の正確性を検証することは、候補者の能力を正しく見極め、入社後の活躍を予測する上で不可欠なのです。
また、反社会的勢力との関わりや過去の重大なトラブルの有無などを事前に把握することは、企業のブランドイメージや社会的信用を守るためのコンプライアンスおよびリスク管理の観点からも極めて重要です。採用調査は、このような潜在的なリスクを回避し、組織全体の安全性を確保するためにも役立ちます。
採用調査とリファレンスチェックの違い
採用調査と混同されやすいものに「リファレンスチェック」があります。両者は候補者について情報を得るという点では共通していますが、その目的や調査方法、得られる情報の内容が大きく異なります。それぞれの違いを正しく理解しておくことが重要です。採用活動においては、目的応じてこれらを使い分けたり、組み合わせたりすることが一般的です。
以下に、採用調査(バックグラウンドチェック)とリファレンスチェックの主な違いをまとめました。
| 項目 | 採用調査(バックグラウンドチェック) | リファレンスチェック |
|---|---|---|
| 主な目的 | 経歴詐称の有無やコンプライアンス上のリスクなど、客観的な事実確認(ネガティブチェック) | 候補者の実績、スキル、人柄など、内面的な評価の聴取(ポジティブチェック) |
| 調査対象・情報源 | 公的記録、学歴・職歴の在籍記録、インターネット上の公開情報など | 候補者が同意の上で指定した元上司や同僚などの関係者(推薦者) |
| 主な調査方法 | 調査会社や探偵事務所への依頼が一般的 | 企業の採用担当者や専門サービス会社が電話やWebシステムでヒアリング |
| 本人の同意 | 調査内容による(個人情報保護法に則り、機微な情報の取得には原則として本人の明確な同意が必要) | 必須(候補者自身が推薦者を選定し、協力を依頼するため) |
| 得られる情報 | 在籍期間、役職、破産歴などの客観的なデータや事実情報 | 仕事への取り組み方、チームでの役割、コミュニケーション能力といった定性的な人物評価 |
簡潔に言えば、採用調査は候補者の「過去の経歴や事実」を検証する手続きであり、リファレンスチェックは共に働いた第三者から「仕事ぶりや人柄」についての評価を得るための手続きです。採用調査が「申告内容に嘘がないか」というリスク回避の側面が強いのに対し、リファレンスチェックは「自社で活躍できる人材か」という活躍可能性を見極める側面が強いと言えるでしょう。近年では、これら二つを組み合わせることで、より多角的かつ深く候補者を理解しようとする企業が増えています。
採用調査はどこまで調べる?合法な調査範囲と違法な範囲
採用調査と聞くと、「自分のプライベートなことまで全て調べられてしまうのではないか」と不安に思う方も多いでしょう。しかし、実際には法律やガイドラインによって、企業が調査できる範囲には明確な境界線が設けられています。採用選考において、企業が知る必要のある情報と、個人のプライバシーとして保護されるべき情報の線引きは非常に重要です。
ここでは、採用調査において合法的に調査できる項目と、違法または不適切となる可能性が高い項目について、具体的な例を挙げながら詳しく解説します。
合法的に調査できる項目
採用調査で合法とされるのは、原則として「応募者の職務遂行能力や適性を判断するために客観的に必要であり、かつ公開情報や本人の同意に基づいて取得できる情報」です。具体的には、以下のような項目が挙げられます。
学歴や職歴など経歴の確認
応募者が提出した履歴書や職務経歴書に記載された内容に虚偽がないかを確認する調査は、最も一般的に行われます。これは、採用の前提となる応募者の経歴が真実であることを確かめるためのものであり、経歴詐称による採用ミスマッチを防ぐ目的で実施される、正当な調査とされています。
具体的には、卒業証明書や成績証明書の提出を求めたり、以前の勤務先に在籍期間や役職、退職理由などを確認したりします。ただし、前職への確認(リファレンスチェック)を行う際は、個人情報保護の観点から、事前に応募者本人の同意を得ることが必須です。無断で前職に連絡を取ることはトラブルの原因となるため、多くの企業では同意書を取得した上で実施します。
インターネットで公開されている情報の確認
現代では、SNS(X(旧Twitter)、Facebook、Instagramなど)やブログ、ニュースサイトの検索など、インターネット上で公開されている情報を確認する「ネット調査」も広く行われています。応募者が自ら公開している情報から、その人物像や社会性、コンプライアンス意識などを判断する材料とすることが目的です。反社会的な投稿や差別的な発言、機密情報を漏洩させるような言動がないかなどをチェックします。
ただし、調査が許されるのはあくまで誰でもアクセスできる「公開情報」の範囲内に限られます。鍵付きのアカウントに不正にアクセスしたり、友人しか閲覧できない投稿を何らかの手段で入手したりする行為は、プライバシーの侵害にあたり違法です。
反社会的勢力との関わりの有無
企業のコンプライアンス(法令遵守)体制を維持し、レピュテーションリスクを回避する上で、反社会的勢力との関わりがないかを確認する調査(反社チェック)は極めて重要です。各都道府県の暴力団排除条例においても、事業者は反社会的勢力との関係遮断が努力義務とされています。
この調査は、専門の調査会社が保有するデータベースや、公的機関が公開している情報、過去の新聞記事などを横断的に検索して行われるのが一般的です。企業の社会的責任として、実施すべき正当な調査と広く認識されています。
破産歴など裁判所の公開情報
自己破産などの法的な手続きを行った事実は、一定期間「官報」に掲載されます。官報は国が発行する公告文書であり、誰でも閲覧可能な公開情報です。そのため、官報に掲載された破産歴を確認すること自体は合法です。
特に、金融機関や企業の経理・財務部門など、多額の金銭を扱う職務においては、候補者の経済的な信用度を判断する一つの材料として調査されることがあります。ただし、職務内容と全く関係のない破産歴を理由に不採用とすることは、就職差別と見なされるリスクがあるため、企業側には慎重な判断が求められます。
違法または不適切となる可能性が高い調査
一方で、法律や厚生労働省の指針「公正な採用選考の基本」により、調査が禁止または不適切とされている項目も明確に定められています。これらの情報は、応募者の適性や能力とは直接関係がなく、収集・利用することで就職差別や基本的人権の侵害につながるおそれがあるためです。
本人の思想や信条に関わること
日本国憲法では「思想・良心の自由」や「信教の自由」が保障されています。これらは個人の内面に関わることであり、採用選考の判断材料とすべきではありません。以下のような情報の収集は、職業安定法や厚生労働省の指針で原則として禁止されています。
- 思想・信条(人生観、生活信条など)
- 支持政党
- 宗教
- 尊敬する人物
- 購読している新聞、雑誌、愛読書
- 労働組合への加入状況や活動歴
これらの情報を面接で質問したり、探偵などを使って調査したりすることは、重大な人権侵害にあたります。
病歴や健康状態
病歴や通院歴、心身の障害、過去の既往症といった健康に関する情報は、極めてプライベートな情報(要配慮個人情報)です。業務を遂行する上で不可欠な場合を除き、これらの情報を本人の同意なく収集することは個人情報保護法で固く禁じられています。
企業が採用選考時に健康診断の受診を求めることはありますが、その目的はあくまで「現在の健康状態が業務に支障をきたさないか」を確認するためです。応募者の過去の病歴や家族の健康状態などを探るような調査は、プライバシー侵害であり違法です。
本人の同意なき信用情報
クレジットカードの利用履歴やローンの返済状況、借入残高といった個人の信用情報は、信用情報機関によって厳格に管理されています。これらの情報は、貸金業法や個人情報保護法に基づき、本人の明確な同意なしに第三者が照会することは絶対にできません。
もし企業や調査会社が違法な手段を用いてこれらの情報を取得した場合、法律違反となり厳しい罰則の対象となります。金融関連の職種であっても、信用情報を確認する必要がある場合は、必ず事前に本人から書面で同意を得る必要があります。
| 調査範囲 | 合法な調査(原則) | 違法・不適切な調査(原則) |
|---|---|---|
| 経歴 | 履歴書・職務経歴書の事実確認(学歴、職歴、在籍期間、役職など) | 本人の同意を得ない前職への詳細な勤務態度や人物評価のヒアリング |
| インターネット情報 | 公開されているSNS、ブログ、ニュース記事などの内容確認 | 非公開アカウントへの不正アクセス、本人になりすましての友人申請 |
| コンプライアンス | 反社会的勢力との関わりの有無(反社チェック) | 労働組合の活動歴や支持政党の調査 |
| 公的情報 | 官報に掲載された破産歴、裁判記録(公開分) | 本籍地、出生地、家族構成や家族の職業・学歴 |
| 個人情報 | (本人の同意を得た上での)リファレンスチェック | 思想・信条、宗教、病歴、本人の同意なき信用情報 |
採用調査と個人情報保護法 実施前に知るべき法律知識
採用調査を実施する上で、最も注意しなければならないのが「個人情報保護法」です。候補者のプライバシーを不当に侵害しないためには、法律に関する正しい知識が不可欠です。この章では、採用調査と個人情報保護法の関係性、本人同意の重要性、そして法律に抵触するケースについて、法的な観点から詳しく解説します。
採用調査における本人同意の重要性
採用調査において、個人情報保護法を遵守する上での大原則は「本人の同意を得ること」です。企業が候補者の個人情報を取得・利用する際には、その目的を明確に伝え、事前に同意を得なければなりません。
特に、学歴や職歴の確認のために出身校や前職の企業に問い合わせるなど、第三者から個人情報を取得する場合(第三者提供を受ける場合)は、原則として本人の同意が必須となります。同意を得る際は、口頭ではなく、後のトラブルを避けるためにも「採用選考に関する個人情報の取扱いについての同意書」といった書面で取得することが一般的です。
この同意書には、以下の内容を明記することが望ましいでしょう。
- 取得する個人情報の種類
- 個人情報の利用目的(採用選考のためであること)
- 調査を行う可能性があること、またその概要
- 個人情報の提供先(調査会社など)
本人の同意なく個人情報を収集・利用した場合、個人情報保護法に違反するだけでなく、企業の社会的信用を大きく損なうリスクがあることを理解しておく必要があります。
個人情報保護法に抵触する採用調査のケース
たとえ本人の同意があったとしても、調査できる内容には限度があります。特に、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴といった「要配慮個人情報」の取得は、法律で厳しく制限されています。本人の明確な同意なくこれらの情報を取得することは、原則として認められていません。
以下に、個人情報保護法やその他の法律に抵触する、またはその可能性が極めて高い調査の例をまとめました。
| 調査項目 | 法的根拠・理由 |
|---|---|
| 思想・信条、宗教、支持政党 | 憲法で保障された思想・良心の自由を侵害する恐れがあります。また、これらは「要配慮個人情報」に該当します。 |
| 人種、民族、社会的身分、門地 | 就職差別につながる可能性が極めて高く、職業安定法でも収集が禁止されている項目です。「要配慮個人情報」にも該当します。 |
| 病歴、健康状態、身体障害 | 業務遂行能力に関わらない病歴等の情報を収集することは、プライバシーの侵害にあたります。これらも「要配慮個人情報」です。 |
| 本人の同意なき信用情報(借金、ローン等) | 信用情報の照会は、貸金業法や割賦販売法に基づき、本人または本人の同意を得た貸金業者等しか行えません。探偵や一般企業が照会することは違法です。 |
| 犯罪歴(捜査機関への照会など) | 前科・前歴は「要配慮個人情報」であり、本人の同意なく取得することはできません。警察などの公的機関に照会することも不可能です。 |
これらの情報を違法な手段で取得・利用した場合、個人情報保護委員会からの勧告や命令、さらには罰則の対象となる可能性があります。
探偵業法と採用調査の関係性
採用調査を外部の調査会社や探偵事務所に依頼する場合、依頼先の業者が「探偵業の業務の適正化に関する法律(通称:探偵業法)」を遵守しているかを確認することも重要です。
探偵業法では、探偵業務に関して「人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない」と定められています。また、同法第7条では、違法な差別的取扱いその他違法な行為のために調査結果を利用することを知りながら、調査依頼を受けてはならないと明確に禁止しています。
つまり、信頼できる探偵事務所や調査会社は、出身地や思想・信条といった差別につながる調査や、盗聴・住居侵入などの違法な手段を用いた調査は決して行いません。万が一、企業が違法な調査と知りながら依頼した場合、依頼した企業側も法的・社会的な責任を問われる可能性があります。
したがって、調査会社を選定する際には、公安委員会への届出を済ませているか、契約時に重要事項説明書を交付するか、そして法令遵守の姿勢を明確にしているかなどを必ず確認しましょう。
採用調査は候補者にバレる?調査方法と発覚の可能性
採用選考において採用調査が実施される場合、候補者として最も気になる点の一つが「調査されている事実は本人にバレるのか?」ということでしょう。結論から言うと、調査方法によって発覚の可能性は大きく異なります。企業側も、候補者との信頼関係を損なわないよう、調査方法には細心の注意を払う必要があります。ここでは、主な調査方法と、それに伴う発覚の可能性について詳しく解説します。
採用調査の主な方法
採用調査の方法は、大きく分けて専門の調査会社に依頼するケースと、企業が自社で行うケースの2つがあります。それぞれの手法で調査内容や深度が異なります。
調査会社や探偵事務所への依頼
企業がコンプライアンスを重視し、客観的で正確な情報を求める場合、採用調査を専門とする調査会社や探偵事務所に依頼するのが一般的です。これらの専門業者は、探偵業法などの法律を遵守し、合法的な範囲内で調査を行います。
主な調査内容は、候補者から提出された履歴書や職務経歴書に記載された学歴や職歴に虚偽がないかを確認する「経歴の裏付け調査」、インターネット上の公開情報や過去の報道などを調べる「風評調査(レピュテーションチェック)」、破産歴の有無などの「公的記録調査」などです。これらの調査は、原則として本人に知られることなく、慎重かつ内密に実施されるため、候補者本人にバレる可能性は極めて低いと言えます。
自社で行うリファレンスチェックやSNS調査
近年、多くの企業が自社で実施する調査方法として、リファレンスチェックやSNS調査が増えています。
リファレンスチェックは、候補者の許可を得た上で、前職の上司や同僚といった関係者に候補者の勤務態度や実績、人柄などをヒアリングする手法です。これは、必ず候補者本人の同意を得てから実施されるため、調査が行われること自体は確実に本人に伝わります。むしろ、誰に協力を依頼するかを候補者と相談するケースが一般的です。
一方、SNS調査は、FacebookやX(旧Twitter)、Instagramといったソーシャルメディアに候補者本人が公開している投稿内容や交友関係を確認するものです。公開されている情報を見るだけなら基本的に合法ですが、注意が必要です。例えば、LinkedInのように閲覧履歴が相手に通知される「足跡機能」があるSNSでは、採用担当者が閲覧したことが候補者にバレる可能性がありますstrong>。また、誤って「いいね」やフォローをしてしまうといった人為的なミスによって発覚するケースもあります。
候補者に採用調査の事実がバレることはあるか
採用調査が候補者に発覚するかどうかは、前述の通り「どのような方法で調査されたか」に大きく依存します。違法な手段を用いたり、配慮に欠ける調査を行ったりすれば、当然発覚のリスクは高まります。
以下に、調査方法ごとの発覚の可能性をまとめました。
| 調査方法 | 発覚の可能性 | 主な理由と注意点 |
|---|---|---|
| 調査会社による経歴・公開情報調査 | 低い | プロの調査員が合法的な範囲で内密に調査を行うため、本人に知られることはほとんどありません。 |
| リファレンスチェック | 必ず発覚する | 本人の同意を得て前職の関係者に連絡を取るため、調査の事実と目的が本人に明確に伝わります。 |
| SNS調査(足跡機能なし) | 低い | 公開情報を閲覧するだけなら発覚しにくいですが、誤った操作(いいね、フォロー等)でバレるリスクがあります。 |
| SNS調査(足跡機能あり) | 高い | LinkedInなど、プロフィールを閲覧すると相手に通知が届くSNSの場合、誰が見たかが候補者に伝わってしまいます。 |
| 違法な聞き込み調査(近隣・友人等) | 非常に高い | プライバシー侵害にあたる違法な調査であり、噂として本人の耳に入る可能性が極めて高いです。企業の評判を著しく損なうため、絶対に行ってはいけません。 |
このように、合法かつ適切な手続きに則って行われる採用調査であれば、リファレンスチェックを除き、候補者にバレる心配は少ないと言えます。しかし、少しでも違法な領域に踏み込んだり、配慮を欠いた方法を取ったりすれば、発覚のリスクは一気に高まります。企業は採用調査を行う際、候補者のプライバシー権を尊重し、法律や倫理を遵守する姿勢が何よりも重要です。
企業が採用調査を依頼する際のポイントと費用相場
採用調査を外部の専門機関に依頼することは、客観的で正確な情報を効率的に得るための有効な手段です。しかし、どの会社に依頼しても同じ結果が得られるわけではありません。ここでは、信頼できる調査会社を選び、適切な費用で依頼するための具体的なポイントを解説します。
信頼できる調査会社の選び方
採用調査を依頼する調査会社を選ぶ際には、いくつかの重要なチェックポイントがあります。安さだけで選んでしまうと、違法な調査を行われたり、不正確な情報を提供されたりするリスクがあるため、以下の点を総合的に判断しましょう。
探偵業の届出
採用調査を含む身辺調査は「探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)」の対象となります。必ず、事業所の所在地を管轄する公安委員会に「探偵業開始届出書」を提出し、届出証明書の交付を受けている正規の業者を選びましょう。届出のない業者による調査は違法であり、企業側もトラブルに巻き込まれる可能性があります。公式サイトや会社概要で届出番号が明記されているかを確認してください。
コンプライアンス体制と実績
採用調査は個人情報保護法と密接に関わるため、依頼先のコンプライアンス意識は極めて重要です。プライバシーマーク(Pマーク)の取得や情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証の有無は、個人情報を適切に取り扱う体制が整っているかどうかの判断材料になります。また、一般的な素行調査ではなく、採用調査(バックグラウンドチェック)に特化した実績が豊富かどうかも確認しましょう。採用に関する法規制や判例を熟知している専門性の高い会社が望ましいです。
調査範囲と報告書の明確さ
契約前に、調査可能な項目と調査不可の項目、そしてその理由を明確に説明してくれる会社を選びましょう。特に、本人の同意が必要な調査と不要な調査の区別をしっかり理解しているかが重要です。また、最終的にどのような形式で報告書が提出されるのか、サンプルを見せてもらうと良いでしょう。報告書の内容が客観的な事実に基づいているか、憶測や推測で書かれていないかを確認することが、採用判断の質を高める上で不可欠です。
料金体系の透明性
料金体系が明確であることも、信頼できる調査会社を見極めるポイントです。基本料金の他に、どのような場合にどのくらいの追加料金が発生するのか、事前に詳細な見積書を提示してもらいましょう。「調査一式」といった曖昧な見積もりではなく、項目ごとに料金が記載されている方が透明性が高いと言えます。複数の会社から見積もりを取り、サービス内容と料金を比較検討することをおすすめします。
採用調査にかかる費用の目安
採用調査の費用は、調査する項目の数や内容、調査の難易度によって大きく変動します。ここでは、一般的な調査項目ごとの費用相場と期間の目安をまとめました。あくまで目安であり、依頼する調査会社や対象者によって異なるため、必ず事前に見積もりを取得してください。
| 調査項目 | 費用相場(1名あたり) | 調査期間の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 学歴・職歴の確認 | 30,000円 ~ 80,000円 | 3営業日 ~ 7営業日 | 卒業証明書や在籍証明の裏付け調査。 |
| リファレンスチェック | 50,000円 ~ 150,000円 | 5営業日 ~ 10営業日 | 関係者へのヒアリング人数や内容により変動。 |
| SNS・Web調査 | 30,000円 ~ 100,000円 | 2営業日 ~ 5営業日 | 公開情報のスクリーニング。調査の深さによる。 |
| 反社会的勢力との関わり | 20,000円 ~ 70,000円 | 1営業日 ~ 3営業日 | 専用データベースや公知情報の照会。 |
| 破産歴の確認 | 20,000円 ~ 50,000円 | 2営業日 ~ 5営業日 | 官報の公開情報の確認。 |
| パッケージプラン | 80,000円 ~ 200,000円 | 5営業日 ~ 14営業日 | 複数の調査項目を組み合わせたプラン。 |
上記の費用はあくまで一般的な相場です。緊急の調査や、海外での経歴調査など、特殊なケースでは追加料金が発生することがあります。コストを抑えたい場合は、特に懸念される項目に絞って調査を依頼する、複数の候補者をまとめて依頼して割引を適用してもらう、といった方法も検討しましょう。
実績豊富な調査会社シエンプレの紹介
数ある調査会社の中でも、企業のコンプライアンスやリスクマネジメントに特化したサービスを提供しているのが「株式会社シエンプレ」です。採用調査においては、単なる事実確認に留まらず、企業のレピュテーションリスク(評判リスク)の観点からも候補者を多角的に調査するノウハウを持っています。
シエンプレの採用調査サービスは、弁護士が監修しており、個人情報保護法や各種法令を遵守した適正な調査プロセスを徹底している点が大きな特徴です。Web上の公開情報やSNSの調査、反社チェック、経歴の裏付け調査などを組み合わせ、採用における潜在的なリスクを可視化します。特にインターネット上の情報収集と分析に強みがあり、候補者の過去の言動や交友関係から、将来的に企業イメージを損なうリスクがないかを評価します。
大手企業から成長中のベンチャー企業まで、幅広い業種での導入実績があり、それぞれの企業の文化や求める人物像に合わせたカスタマイズ調査も可能です。法的な正当性を担保しながら、採用ミスマッチや将来の労務トラブルを未然に防ぎたいと考える企業にとって、信頼できる選択肢の一つと言えるでしょう。
採用調査をされる候補者が知っておきたいこと
採用選考の過程で、企業から「採用調査を実施したい」と伝えられた場合、候補者としては不安に感じるかもしれません。ここでは、採用調査を受ける立場になった際に知っておくべき権利や対処法について解説します。
採用調査を拒否することは可能か
結論から言うと、採用調査を拒否すること自体は可能です。採用調査は、候補者本人の同意を得て実施するのが大原則です。個人情報保護の観点からも、本人の知らないところで勝手に調査を進めることは通常ありません。
しかし、正当な理由なく調査を拒否した場合、企業側に「経歴に何か隠したいことがあるのではないか」という疑念を抱かせ、採用選考で不利に働く可能性がある点は理解しておく必要があります。特に、経歴詐称の確認など、企業が採用判断を下す上で合理的と判断される範囲の調査を拒否すると、内定が見送られるケースも考えられます。
もし調査に同意しがたい場合は、単に「拒否します」と伝えるのではなく、「プライバシーに関する懸念があるため、調査の具体的な範囲と目的を詳しく教えていただけますか」といった形で、まずは企業と対話することが重要です。その上で、どうしても受け入れがたい項目があれば、その理由を丁寧に説明し、代替案(例:自分で推薦者を提示するリファレンスチェックなど)を提案することも一つの方法です。
不当な採用調査をされた場合の相談先
採用調査は合法的な範囲で行われるべきものであり、本人の思想・信条、人種、病歴、支持政党といった、職業能力と直接関係のない機微な個人情報を本人の明確な同意なく調査することは、違法または不適切と判断されます。
もし、面接で不適切な質問をされたり、後から不当な調査が行われた疑いがあったりして、人権を侵害されたと感じた場合は、泣き寝入りする必要はありません。違法な調査によって精神的苦痛を受けた場合や、それが原因で不採用になったと考えられる場合は、専門機関に相談することができます。
主な相談先としては、以下のような機関が挙げられます。
| 相談先 | 相談できる内容の例 |
|---|---|
| 各都道府県の労働局 | 採用選考における差別や人権侵害など、労働問題全般に関する相談・助言・あっせん。 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 法的トラブル全般に関する情報提供や相談窓口の案内。経済的な余裕がない場合には、無料の法律相談や弁護士費用の立替え制度も利用可能。 |
| 弁護士 | 具体的な法的措置(損害賠償請求など)を検討している場合の法律相談や代理交渉・訴訟の依頼。 |
| 個人情報保護委員会 | 企業による個人情報保護法違反が疑われる場合の相談や、情報提供(申出)。 |
| ハローワーク(公共職業安定所) | 職業安定法で収集が禁止されている個人情報を企業が収集しようとした場合の相談。 |
どの機関に相談すればよいか分からない場合は、まずはお近くの労働局や法テラスに問い合わせてみるとよいでしょう。自身の状況を説明し、適切な窓口を案内してもらうことができます。
まとめ
採用調査は、企業が採用ミスマッチを防ぎ、組織のリスクを低減させるために実施するものです。しかし、その調査方法や範囲を誤ると、個人情報保護法や職業安定法に抵触する重大なコンプライアンス違反につながる可能性があります。この記事で解説した通り、採用調査を適法に行うための結論は「原則として候補者本人の同意を得ること」に尽きます。
学歴や職歴の確認、公開情報の収集は合法ですが、本人の思想信条や病歴、同意のない信用情報の調査は違法または不適切です。企業は調査の必要性を慎重に検討し、候補者との信頼関係を損なわないよう透明性を確保しなければなりません。調査を依頼する際は、探偵業法を遵守する信頼できる調査会社を選ぶことが不可欠です。
一方で、候補者も自身の権利を理解し、不当な調査には拒否する権利や、労働局などの公的機関に相談する選択肢があることを覚えておきましょう。